獅子座とライオン1


天気のいい昼下がり。
馴染みのカフェに向かうと、テラス席に一人の女がのんびりお茶を飲んでいた。

それはいい。
どこにでもある光景だ。

だが、その女の『荷物』が問題だ。
ボストンバッグを、膝や手に持つどころか、
のうのうと足元の、少し離れた所に置いていやがる。
これじゃあ、「盗んでください」と言ってるようなもんだ。
ほら見ろ、通りの向かいにたむろってるヤロー2、3人が、
その荷物と女を見てニヤついてやがる。
盗られるのも時間の問題だ。
もしかすると、盗られるだけじゃあなく、ヤられちまうかもしれねえな。
こんなにマヌケじゃあな。

女をよく見ると、どうやら観光客の日本人みてえだ。
日本人は平和ボケしてるからな。
ここじゃあカモになりやすい。


そのまま知らん振りしてても良かったが・・・

何故かオレはその女のテーブル席へ、どかりと腰をおろした。

「?」

女は不思議そうな顔をして、それから、少し困った顔をした。
しかし、文句も何も言わず、恥ずかしそうに俯いた。
ナンパだとでも思ってんだろーか。
なんてオメデタイ女だ。

「おい。」

オレが声を掛けると、

「は・・はい・・・?」

恥ずかしそうな顔のまま、上目遣いでオレを見る。

「荷物。」

「・・・?
 荷物、ですか・・・?」

あまりの鈍さにオレは苛立ちを覚えた。

「お前の荷物。
 そんなとこに置いてると、すぐに盗まれちまうぜ?」

溜め息まじりに忠告してやると、
女は慌てて足元のボストンバッグを胸に抱えた。

「あっ、あのっ・・・
 ご親切にどうもありがとうございます。」

女が馬鹿丁寧にお辞儀をしながら言った。
日本人特有の黒髪が綺麗に揺れる。

ふと、テーブルに目をやると、
この町の地図と、観光ガイドブックが開かれていた。

「あんた、観光客か?」

「え?あぁ、
 ・・・・・はい。
 でも、道に迷ってしまって・・・」

返事が遅かったのが少し気になったが、
こんな覇気も無く、のろまな女が、何かをしでかすようなやつには見えねえ。
恐らく、本当に観光客で、本当に道に迷っただけなんだろう。

本来のオレなら、ここで、
「あぁそうかい。それじゃあな。」
とでも言って、すぐにでも立ち去るはずなんだ。

だが、この日はなんだかやけに気になって・・・
この女のことが気になって・・・

「で?
 何を観に行きてえんだ?
 美術館か?遺跡か?」
オレは自分でもありえねえってぐらい優しく尋ねた。

女はきょとん、とした顔をして、それから、

「あのっ、ここなんですけどっ・・・」

と、すぐにガイドブックの写真を指さした。



女が希望した美術館を巡り終わると、空もだいぶオレンジ色に染まってきていた。

「今日は本当にありがとうございました!
 荷物を助けて頂いて、それに美術館まで一緒に来て下さって・・・」

女は嬉しそうにオレへ笑いかける。
スキップでもしそうなくらいのはしゃぎっぷりだ。

「あっ、ほら、あそこでアイスクリームでも食べませんか?
 えっと・・・」

オレの顔を見て、そして今気付いた、という表情で、

「ご、ごめんなさい!
 まだ、お名前お伺いしてませんでしたよね!」

と、慌て出す。


まあ・・・
オレも、
「おい」
とか、
「お前」
とかしか呼んでなかったからな・・・


「私、って言います。
 あ、えと、、です。」

か。
 オレは・・・」

一瞬躊躇したが・・・

「オレは、レオーネだ。」

ファーストネームを教えた。
なんだか、こいつにはレオーネと呼ばれたい。
何故だか、そう思った。

「レオーネ、・・・レオーネ・・・」

名前を覚えるためだろうか、何度も繰り返す
いや、違う。
覚える、と言うより、なにかを思い出そうとしてる顔だ。
少し俯き、人差し指を顎に当てている。

・・・やっぱりこいつ、なんかあるのか?!
まさかとは思うが、ギャングだとか、刺客だとか、
・・・スタンド使い、だとか・・・

オレは用心深くの出方を待った。
本名を教えたのはやはりマズかったか・・・

「あっ!」

はオレの顔を見て短く叫ぶと、
下げていた鞄の中をさぐった。

何が出てくるのか・・・
ナイフか?拳銃か?

オレは身構えた。
女だからといって、容赦はしねえ。

・・・だが・・・

予想に反して、の手に握られたモノは、
・・・辞書だった・・・

「えーーっと・・・
 あ、ほら、あった!やっぱりそうだわ!」

ページを繰って、目的のものを見つけたのか、
嬉しそうにオレへと突き出した。

『【leone】ライオン』

「レオーネ!ライオンさんですね!」

嬉しそうに笑う
呆気に取られるオレ。

「実は私、獅子座なんですよ。
 だから、レオーネって覚えてたんです。
 おんなじレオーネですね。」

女は、ふふっ、と、照れ臭そうに笑った。


なんだか肩透かしを喰らったみてえで、
思わず頬がゆるんじまった。

「わぁ!」

途端、が感嘆の声を上げる。

何だ?と思うと、

「レオーネさん、笑った顔も素敵ですね。
 イタリアの方って皆さん素敵ですけど、
 レオーネさんが一番カッコイイです!」

そう言うと、
あ!しまった!といった真っ赤な顔をして、俯いた。

そんなの言動に何故か悪い気はせず、

「ほら、行くぞ、
 あそこより、美味しいアイスクリーム屋知ってんだ。」

自然にの手を握り、引っ張った。



夕陽を見ながら食べるアイスクリーム。
なんだかすげえ平和だな、と、
隣りで幸せそうにアイスクリームを舐めているを見つめながら思った。

「もうすぐ陽が暮れちまう。
 ホテル何処だ?
 この辺は物騒だ。送ってくぜ?」

「あ・・えと・・・
 ホテル、ではなくて・・・
 あの、この場所に連れて行って頂きたいのですけど・・・」

ご存知ですか?と、差し出されたメモに書かれていたのは・・・


オレたちのアジトの住所だった。




TO BE CONTINUED


☆☆☆

アバッキオ初夢です。
ナランチャだけではおさまらず、ついにアバッキオにまで手を出してしまいました☆
ツンデレなアバッキオを上手く書けたらいいなあと。
それにしても・・・
アバッキオは、アイスクリームなんて舐めるのでしょうか・・・


↓宜しければ感想などどうぞ♪


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