違反


アレルヤが規則違反を犯した。

低軌道ステーションの事故で、232人も乗った第7重力ブロックが地球に墜落しそうだったのを、アレルヤがガンダムキュリオスで助けたのだ。
人命救助をしたわけだが、ソレスタルビーイングにとっては、規則違反以外の何ものでも無かった。
ミッションを遂行出来なかった上に、デュナメスの能力まで世界に晒したのだから。

そのせいで、軟禁されているのが、私には納得出来なかった。

戦争根絶、つまりは人々が平和に暮らせる手助けを目的としているのだから、人命救助をしても良い筈だ。
そもそも、人として、普通に考えて、人助けはするでしょ?それなのに…

私は、スメラギさんとティエリアがいる部屋の扉を開けた。

「どうかした??」
「スメラギさん…アレルヤの処分を解いて下さい。」
、一介の整備員の君に発言権は無い。」
ティエリアが冷たい口調で言い放つ。
だが、私も引き下がれない。

「ちょっと…ちょっと待ってよ!私に発言権が無いのは分かってる。
分かってるけど、やっぱり納得出来ないよ!
ソレスタルビーイングは、戦争根絶が目的なんでしょ?」

ティエリアから、何を当たり前な…というような目で一瞥される。

「と言う事は、人々が平和に暮らせる手助けを目的としているのだから、人命救助をしても良い筈じゃない?
ガンダムは兵器で、乗る人の人間性でどうにでもなる諸刃の剣でしょ?
迷わず人命救助するアレルヤは、ガンダムに乗るべき人なのよ、だから…」

一気にまくし立てる私を、ティエリアは片手を挙げて制止した。
「言いたい事は理解した、だが、処分を解くつもりもないし、やはり君には発言権は無い」
「…っ…」
悔しさで唇を噛む。

「ねぇ、。どうしてそんなに必死なの?アレルヤがどうなろうと、には関係無いでしょ?」
スメラギさんが優しい口調で聞いてきた。

私はふと、アレルヤの事が脳裏をよぎり、頬が熱くなるのを感じた。

「…そう、好きなのね、アレルヤの事。」
スメラギさんに改めてそう言われ、私は一層顔を赤らめた。
「大丈夫よ、。アレルヤがガンダムマイスターである事に変わりは無いわ。」
「ミス・スメラギ!」
ティエリアが納得出来ないといった表情で声を荒げる。

「でも、ミッションを遂行するに当たって、こちらの指示に従って貰わないと、今度は私達の命が危なくなる可能性もあるの。
勿論、アレルヤの命も、ね。
今後、こーゆー事が無いように、と言う意味を込めた処分なのよ、分かってくれる?」

スメラギさんに優しく諭され、私は首を縦に振るしか無かった。
「じゃあ…せめて、食事だけでも…私に運ばせて下さい、お願いします」
私は深々とスメラギさんとティエリアに頭を下げた。

ティエリアは、仕方ない、といった体で溜息を吐くと、「今回だけなら…」と、渋々承諾してくれた。
「!ありがとう、ティエリア!」私は思わず笑顔で返した。
そんな私を、スメラギさんはクスクスと笑いながら見ていた。


パシュッ…

アレルヤの軟禁されている部屋の扉が開くと、膝を抱えて俯いている彼が目に飛び込んで来た。
その様子がとても物哀しく、なんだか消えてしまいそうな、そんな気持ちにさせた。

私はわざと明るく声を掛けた。
「アレルヤ、ご飯だよ!」

アレルヤがゆっくりと私に目を向ける。
「ありがとう…今日はが当番なの?」
「うぅん、本当は違うんだけどね、ティエリアに無理言って、今日だけ特別に…」
言いながら、ハッと口をつぐんだ。

やばい、これじゃぁ私、アレルヤを気にしてます、って告白してるようなものじゃない?!

恐る恐るアレルヤの顔色を伺うと、嬉しそうな顔はしたものの、特に気付いたような気配は無かった。
「ありがとう。頂くよ」
アレルヤは皿を引き寄せると、ゆっくりと口に運び始めた。

「ね、アレルヤ。食べ終わるまで、ここにいても良い?」
「それは…嬉しいけど、でも…ティエリアに叱られないかな?」
「そんなの平気だから、お願い、居させて。」
「…分かったよ、ありがとう。」
ふっと微笑むアレルヤに、心臓がどうかなりそうな程、鼓動が激しくなった。

私は、アレルヤに悟られまいと、わざと大きな声で話出した。
「酷いよね、ティエリアって!人命救助したアレルヤを閉じ込めるなんて。
立派なことしたんだから、偉い人から表彰とかされても良い位だよねっ!」
「面白いことを言うね、は。」
「だって…悔しいんだもん…人として、人助けをするのは当然な筈なのに…」
「ありがとう、。君がそう思ってくれてるだけで、僕は嬉しいよ。」
優しく微笑むアレルヤ。胸が熱くなる。

「そうだ!ね、私が表彰するよ!」
私の言葉に、アレルヤは「?」と不思議そうな顔をする。
「ほら、立って!」
強引にアレルヤの手を引き、立ち上がらせた。

私は、賞状を持ってるかのように両手を前に出すと、
「表彰状、アレルヤ・ハプティズム殿。
貴方は、沢山の人を勇敢に助けてくれました。
その勇気ある行動に私は心をうたれました。
助けられた人々も、貴方に感謝してることでしょう。
それをここに表彰します。。」

読み上げると、アレルヤへと見えない賞状を手渡した。
「ありがとう、。僕は…」
そう言うと、アレルヤは私の手を握り、自身の胸に押し当て、俯いた。

声は無く…だが、泣いているようだった…。

どれぐらいそうしていただろう、ほんの一瞬だったのかも知れないけれど、私にはとても長く感じられた。

アレルヤが泣いているかも知れないという事と、手を握られているという事に、胸がいっぱいになって…なんだか涙が溢れそうになった。

「…ゴメン、ありがとう…」

アレルヤがゆっくりと顔を上げ、また優しい微笑みを向けてくれる。
私はこぼれそうになる涙を堪えながら、アレルヤに笑顔で返した。


結局、軟禁から1週間以上後…次のミッションに必要だから、と言う名目で、アレルヤは開放された。
久し振りに見るアレルヤは、でも、なんだか晴れ晴れとした表情だった。


それから数か月後。
トリニティ兄弟の一般人殺戮事件が起こった。
クルー全員がモニターを見つめる中、ティエリアが私に声を掛けて来た。
。前に君が言った事、今なら深く賛同出来る。」
「?」
「乗る人間の人間性によって、ガンダムは凶器にもなる、と言う事だ。」
「っ!…分かってくれて、ありがとう…」

そう、人々をいとも簡単に殺せる凶器だからこそ、アレルヤのように、しっかりとした信念を持って扱わなければ…私達は…

ティエリアに、アレルヤが認められたような気がして、私は嬉しくて、誇らしげにアレルヤを見つめた。


おしまい。


☆☆☆

ティエリアに「とても反省をしているとは思えない」と言われたのに「そうだね」と答えるアレルヤ。
きっと、こういう背景があったんだろうなぁ、なんて。


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