生まれた日、初めての夜


「キュリオス、ミッション完了。帰還します。」

クリスのアナウンスを聞いて、私はホッと胸を撫で下ろした。

良かった、無事に終了して。
…でも…

『同胞殺し』…

アレルヤの胸中を思うと、手放しでは喜べなかった。

一体、どんな気持ちで引き金を引いただろう……


一秒でも早くアレルヤに逢いたくて、私は、キュリオスの格納庫で着艦を待った。

キュリオスが無事に到着すると、アレルヤがゆっくりと降りて来た。
私は何と声を掛けていいか判らず…
それでも、近くに駆け寄り、「アレルヤ…」と、愛しい人の名を呼んだ。

しかし、
…アレルヤは私を見ること無く、否、まるでここには誰も居ないかのように、スッと素通りして行ってしまった。

私は、アレルヤに認識して貰えなかった事も哀しかったが、
それより、何も感情が無いかのような顔でいるアレルヤの方が心配だった。

きっと、
辛いはず。
傷付いているはず。

…そして、きっと、
自分のした事を悔いているはず…。


アレルヤの後姿を見送りながら、私の目には、うっすらと涙が滲んだ。


イアンさんに呼ばれ、私はキュリオスの整備に入った。

ほぼ、整備が終わった頃…
、疲れただろう。もう、休んでいいぞ。」
イアンさんが優しく声を掛けてくれた。
きっと、アレルヤの事を考えながら仕事してたから…
お父さんのように気を遣ってくれたイアンさんにお礼を伝え、早々と自室へと戻った。


ミッション進言前、アレルヤが言っていた「ミッション成功後に伝えたい大切な事」も気になったが、
それよりも、今は、きっと辛いであろうアレルヤの事が一番心配だった。
自室でベッドに腰掛けつつも、ちっとも休もうという気にはならなかった。


プシュッ

唐突に、扉の開く音がし、…
そこに、アレルヤが立っていた。
アレルヤにだけは、私の部屋のパスワードを教えていたから、ロックを解除出来たとしても不思議では無かったのだけれど。
こうも突然現れるのは、アレルヤらしくなかった。
いつもは、私に気を遣って、まずはドアを鳴らすのに。。。

一歩中に入ると、アレルヤの背でロックの締まる音がした。

よく見ると…姿形はアレルヤなのに、今まで見た事もない、別人のような顔をしていた。

「初めまして、お嬢ちゃん。」

声も、まるでアレルヤとは異なっていた。

「…アレルヤ…じゃ、ない……?もう一人、別の……」

「くくっ、初めて逢うのに、鋭いなぁ。さすがだ。
…そう、俺はハレルヤだ。アレルヤとは違う。」

口の端を極端に上げ、喉を鳴らして笑う表情は、怖いとさえ感じられた。

「そんなに怖がんなよ。お前の大好きなアレルヤ様と同じ人間なんだぜ?」

そう言いながら、ハレルヤは、私に近付いて来る。

私は、ベッドの上で壁を背にしたまま、これ以上後ろに退く事も出来ず、ただ震えながらハレルヤを見る事しか出来なかった。
距離を一気に縮め、もう、ハレルヤは私の目の前に居る。
ハレルヤは右手を伸ばすと、私の肩をぐいっと掴み、

「なぁ、。いつもはお優しいアレルヤ様が、こんな事考えてたらどうする?」

「…?こ、こんな事、って??」

私が応えるより早く、ハレルヤは私の首筋を噛み付くように舐めた。

「…っ!!!」

更に、肩を掴んでいた手を、胸の方に下ろし、ぐいっと乳房を鷲掴みにする。
私は、恥ずかしさから顔を真っ赤にさせた。
恐怖から抵抗も出来ない…。

「くくっ、アレルヤはなぁ、お前を手に入れたくて仕方が無いんだと。
お前とこーゆー事がしたくて、しょうがないんだとよ。
おかしいよなぁ、したくてしたくてたまらないのに、全然手が出せずにいるんだぜ。
頭の中では、何度もお前を犯してるってーのによォ。
だから、さ。俺がやってやるよ。
なんにも出来ないアレルヤの代わりに。
人殺しも、女を犯すのも、全部、俺が…。
ふははっっ!どうだ、可笑しいだろ、笑えるだろうっ!!」

ハレルヤは掠れ気味の笑い声を上げた。
けれど、私は笑えなかった。
かといって、もう、怖いと思う事も無かった。

だって、…

ハレルヤは、
アレルヤは、

泣いていたから……。

可笑しくてたまらない、と笑いつつも、
その両目からはとめどなく涙が溢れている。

私は、ハレルヤに胸を掴まれている事も忘れ、両手を差し伸ばし、ハレルヤの頬の涙をそっと拭うと、そのまま頭を胸へと抱きかかえた。

「っ!な、なにを…っ」

ハレルヤは戸惑っていた様子だったが、暴れる事も無く、大人しく私に抱かれている。
私はぎゅっと両腕に力を込めた。

「…ハレルヤ、大丈夫だから。
…アレルヤ、もう、大丈夫だから…。」

強張っていたハレルヤの肩から、ふっと力が抜け、少しの間、沈黙が流れた。
そして、ゆっくりと私の腕をすり抜けていく。
見ると、いつもの優しい目に戻っていた。

…ありがとう。
…あの…何て言っていいか…ごめん、迷惑かけて…
いきなり、あんな事して、…許される事じゃないって、分かってる…」

いつものアレルヤが、謝罪の言葉を一気に言うのを、私はきょとんとして見ていた。

「っ、あの、アレルヤ…気にしないで。あれは、ハレルヤが…」

「は、ハレルヤは…僕だから。僕が、した事だから…」

少し伏目がちに、今更ながら恥ずかしそうな表情をするアレルヤ。
なんだか、可愛いとさえ思える。

「あの、ホント、気にしないで。怒ってないから。」

「……」

アレルヤの綺麗な瞳と視線がぶつかる。

「おかえりなさい、アレルヤ。」

「…ただいま、。待っててくれて、ありがとう。」

気がつくと、お互いに抱き締めあっていた。

「…。ミッションを成功させて帰って来たら、もう一つ、伝えたい大切な事がある、って。約束。」

「うん、覚えてるよ、アレルヤ。」

「…。」

私の顔が見えるように、自身の腕から私を少し離すと、そこには、真剣なまなざしのアレルヤがいた。

。こんな事をしてしまって、今更何を、と思うかもしれないけれど……
僕は、の事が、…好きなんだ。誰よりも、の事を愛してる。
…こんな僕が、この世界でたったひとつ、守りたいと思っているのが、なんだ。」

「アレルヤ…」

「あ、あの…だけど、迷惑だったら、…に、他に好きな人が居たら、僕は…その…」

なんだかアレルヤらしく、周りにも気を遣ってるみたいだけど…

「アレルヤ。そんな心配、しないで。
…私も、…アレルヤが好きなんだから……」

自分でも分かる程、顔を赤らめながら、アレルヤに応える。
途端に、アレルヤの顔は、ぱぁッと花が咲いたように明るくなった。

「ほ、本当に?!夢じゃないよね?!!」

私が頷くと、ぎゅっと抱き締められる。

「あぁ、っ!!僕の、……」

ゆっくりとアレルヤの顔が近付いて来て…温かいくちづけが舞い降りた。

そっと唇を放し、私を見つめながら、

「あぁ、夢みたいだ。。」

そう囁きつつ私の髪を愛しそうに梳いた。

そんな甘い言葉を言われながら、そんなに甘く髪を梳かれると、私の方が夢を見ているような気持ちになる。

、そんな顔されたら…僕、もう……」

アレルヤがもう一度、今度は深いくちづけをしてきた……



そして、私達は、初めての夜をともにした…。



…アレルヤに大切にされた後、狭いベッドでまどろむ私達。

「実は、今日ね。」

アレルヤがおかしそうに切り出した。

「…僕、20歳になったんだよ。」

「えっ!お誕生日だったの?!…もう少し早く言ってくれてたら!プレゼント用意したのにぃ…。」

私が口を尖らせると、

「もう、貰ったからいいよ。」

アレルヤが照れたような顔で笑った。

「!!!」

その意味が分かり、真っ赤になる私。
もぅ、かなわないなぁ、と思いながら、

「お誕生日、おめでとう、アレルヤ。」

「ありがとう、。今日を一緒に過ごせて、とても嬉しいよ。」

もう一度、ぎゅっと抱き締められると、安堵から、私は深い眠りへと落ちていった。

「おやすみ、。」

遠のく意識の彼方で、優しいアレルヤの声が響いた。



おしまい。


☆☆☆

アレルヤ誕生日と初LOVEです。
傷心のアレルヤを癒せるのは、きっと、ヒロインちゃんだけなのです。

この、初LOVEの詳細(笑)は、別ページにup予定です。
裏OKな方のみ、裏をまとめて置いている『 iN 』の方でご覧下さい♪


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