熱帯夜


一週間の合宿が、今夜、終わろうとしている。

テニス部の合宿は、とてもとても厳しいものだけれど、それでも、
が一緒に練習している」
というコトが、僕を奮い立たせた。
は本来、女子テニス部一年生なんだけど、
試験的に「男女混合」として一人だけ、うちの男テニで一緒に活動している。)

しかも、夜は同じ合宿所に泊まっている。
部屋は別々だけどね、モチロン。

僕は、このはかなげなトキメキを、うまく隠せているだろうか・・・。

僕とは、付き合っているワケではないけれど、
春の地区大会、都大会、そして、つい先月前の関東大会で、ダブルスのペアとして組んでいた。
休日でも、の方からテニスクラブに誘ってくれたり、
練習後に一緒にラーメンを食べに行ったり・・・。
他の部員より親しいハズ!と、自負している。

僕は、との仲をより確かなものにしたい。

けれど、間もなく始まる全国大会に向けての、この雰囲気の中、
とてもそんな甘い考え、表に出せる筈もない。
ただ、ひたすら、全国制覇に燃える青学テニス部の一員として、
そして、のより良きパートナーとして、練習に励んでいる。


合宿所の裏庭には、眠れぬ僕と、月の、ただそれだけしかなかった。

「・・・不二先輩・・・?」

聞き慣れた声に、僕はドキッとした。

振り返ると、すぐそこに、が立っていた。
僕の胸が高鳴る。

「アレ・・・どうしたの?。眠れない?」

僕は、平静を装って、に優しく微笑んだ。

「なんだか、体が疲れすぎちゃって、逆に寝付けないんです。
・・・それに・・・今日で合宿が最後だと思うと、寝るのが勿体無い気がして。」

は、エヘヘ・・と、照れたように笑った。

「不二先輩は?」

「僕?僕も、と似たよーなものかな?
それに、ほら。月が、あまりに綺麗だったから。」

僕が月を仰ぐと、も同じように上を向いた。

「ホント・・・綺麗な月。」

慈しむように月を眺めるの横顔を、僕はじっと見つめた。
月に照らされたは、昼間、いつも見ている顔なのに、
何故だか、ハッとさせられる程、目を奪われた。


の髪に触れたい。

を抱き締めたい。

の唇にキスしたい。

「君が 欲しい」

・・・なんて、言えれば・・・。


僕の心の中で、欲望と理性のメリーゴーラウンドが、
ぐるぐる ぐるぐる と廻り続ける。

の目が月を放し、代わりに、僕を捉えた。
と見つめ合う。

ドキドキドキドキ

僕はたまらず、にこっと笑った。
これ以上見つめていたら、ホントに何するか判んない・・・。

「もうすぐ、全国大会だね。一緒にガンバロウね。」

良い先輩ぶってみた。

「ハイッ!」

は、力強くうなずいた。

どこかで仔猫が小さく鳴いた。

「さ、戻ろうか。・・・眠れそう?」

「・・・多分。」

は苦笑した。

僕は耐え切れず、の頭に手をやり、くしゃっと髪を撫でた。

「おやすみ。」

は顔を真っ赤にしながら、

「おっ・・・おやすみなさい。」

と、僕より一足先に宿舎内へと入って行った。

僕は、の柔らかい髪の感触を右手に、
灼熱の夜に甘く溶けてしまいそうだった。

なまぬるい風が、夜の空へと抜けていった。


おしまい。


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