SWEET & SWEET


キンモクセイの香る、秋。

僕とが付き合い始めて、二ヶ月が経った。

男女混合ダブルスも、二ヶ月前の全国大会で終了し、は、
女子テニス部へと戻った。

僕はというと、毎日、の部活が終わるまで、図書館で待っている。
そんなに長くない距離を、どうしても一緒に帰りたくて、
僕は半ば無理矢理、ここで待っているんだ。

秋の陽射しが、室内をぽかぽかと心地良い温度にしている。

僕は、開いていた本が閉じかけるのも構わず、
睡魔に体を預けた。


夢を、見ていた。

を優しく抱き締め、キスをして、それから・・・。

自分の願望を達成させる「充足夢」と言うのがあるけど、
まさにそんな夢だった。

部活も引退し、厳しい練習から遠ざかった今、
僕には、しか無かった。

が、すべてなんだ。

そのとは、まだ手を繋ぐ程度で、
やたらと触ったり、
キスをしたり、
なんてことは全然無い。

それが僕には、ちょっとつまらなかった。

僕も男だし、可愛いを見て、

桜色の口唇に触れたい、とか、
白くチラつく胸元に触れたい、とか、
欲情もする。

けれども、自分の強い「弱さ」に縛られ、身動きが取れないんだ。


そんなコトを頭の片隅で思いながら、夢の中のを「感じて」いた。



「・・・先輩・・・。不二先輩。」

僕は、聞き慣れた声で、夢から醒めた。

僕の隣りには、今まで夢の中に居た筈のが、座っていた。

僕は、なんだか嬉しくなって、自然と笑みがこぼれた。

「・・・ふふっ。夢、見てた。」

もう、薄暗くなった室内で、は僕の顔をじっと見つめ、首を傾げながら

「夢?どんな夢ですか?」

と尋ねてきた。

「・・・。とキスしてた。」

ホントは、キスだけじゃなくって、もっとイロイロしてたんだけどね。

僕が白状すると、は顔を真っ赤にして、自分の口唇に手を当てた。

そんなの仕草が、僕を刺激する。
フル回転の欲望がたまらず、愛し合いたくて仕方が無い。

僕はゆっくり頭を持ち上げ、をじっと見つめた。

室内には、と僕だけ。
夕日も沈み、夜が始まろうとしている。

僕は高鳴る鼓動をそのままに、
の肩に手をかけると、ゆっくり、ゆっくり、顔を近付けていった。

次の瞬間。

僕の口唇は、の柔らかい口唇に触れていた。
の肩が、少し震えているのが判る。

このまま、長いくちづけをしていたい・・・。

蜂蜜のように甘く溶けるような感覚に、体の奥まで熱くなる。

ゆっくり口唇を離すと、ビックリしたの顔が現れた。

「ど・・どきどきして・・・ます・・・」

真っ赤な顔で、は、素直な感想を呟いた。

「ぷっ・・・」

僕は可笑しくって、そして、
と口唇を重ねるコトが出来た満足感とで、吹き出していた。

僕はの手を取り、自分の胸へと持って来た。

・・・どきどきどきどき・・・

鼓動の高鳴りは、まだ、消えていない。

「ね。僕も、どきどきしてる。」

僕らは、ふたり笑い合った。


星空から、僕らを祝福するかのように、
ほのかにキンモクセイの香りが届いた。


おしまい。


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