もしもハレルヤが喧嘩番長だったら


授業前の屋上。
ここに、喧嘩番長ことハレルヤ君をはじめ、不良グループ数人がたむろしている。

「は、ハレルヤ君・・たち・・・、
 じゅ、授業、始まるよっ!」

私は思い切って、声を掛けた。

「おー、委員長か。ご苦労なこった。
 ビリーのやろーにでも頼まれたか?」

ハレルヤ君は、くっく、と喉で笑って、取り合ってくれない。
あ、ビリーってゆーのは、うちの担任の先生。
私がクラス委員なので、ビリー先生から、ハレルヤ君たちを呼んでくるように頼まれたのだ。

「最近、ずっと授業出てないでしょ?!
 ビリー先生も困ってるし・・・」

早くここから立ち去りたかったけど、一応、そう言ってみた。
すると・・・

「授業なんて、ツマンネーしなあー。
 ・・・あ、・・・
 なあ、じゃあさ。
 委員長が、俺と付き合う、ってんなら、出てやってもいーぜ?」

ハレルヤ君が、にやり、と笑いながら提案する。
他の男子も、それいーね!と、ハイタッチしながらげらげらと笑う。

じょ、冗談じゃないっ!!

私は、ムッとして、無言のまま、屋上をあとにした。


教室に入り、席に着くと、少しして、ハレルヤ君たちも教室へ戻って来た。
それだけならまだしも、何故か、私の隣りの席の子を押し退けて、ハレルヤ君がそこに座り、しかも、私の机にその机をくっつけだした。

「ちょっ、ちょっと!何してるの?!そこ、席違うよね?!」

慌てる私を尻目に、

「あン?俺たち、付き合ってんだろ?
 だからさ、机もくっつけねーとなァ!」

と、片方の口角を上げて笑いながら、机をがたがたとくっつける。

「やあ、ハレルヤ君たち、ようやく授業に出る気になってくれたかい。」

ビリー先生が入って来て、のんきにそう言った。

「ハイ。委員長が、どうしても、って言うもんで。」

そう応えるハレルヤ君に、ビリー先生は満足そうに、そうか、と微笑んだ。

ちょっ、どう見てもオカシイでしょ、この席順!
どうにかして欲しい私は手を上げるも、ビリー先生はこっちを見てくれない。
絶対わざとだ。


それからというもの、ハレルヤ君は、ずっと私に付きまとった。
授業に出てくれるのはいいんだけど・・・
授業中は、教科書を見せろ、だの。
お昼は、一緒に弁当食わせろ、だの。
正直、不良のハレルヤ君や、たむろってる仲間の男子は、雰囲気が怖い。
目つきもヤバそうだし、関わりたくないのに・・・
なんでこうなるの・・・


ハレルヤ君から逃げるように、図書館に避難した私。
ふぅ。これで一人でゆっくり出来る。
そう思い、ページを繰っていると・・・

「よぉ、探したぜ?委員長さんよぉ。」

出た。喧嘩番長。

「ナニ読んでんだ?」

私の前の席に陣取ると、そう訊いてきた。

「か、『蟹工船』・・・」

「カニコウセン?
 蟹光線か??
 蟹から光線が出るのか?ビーッ、て?」

おでこに指を当てて、まるで特撮ヒーローがするようなポーズを取ったハレルヤ君。
今まで、怖い人だ、と思っていたから、まさかそんな格好をするなんて凄く意外で。

「ぷっ、・・・あははは・・・」

思わず、笑ってしまった。
すると、今度はハレルヤ君の方が、意外そうな顔をして私を見つめた。

「アンタさ。」

「?」

「笑ってる方が全然可愛いーぜ?」

にやり、と、いつもみたいに、片方の口角を上げて笑う。
思いがけない言葉に、自分でも顔が赤くなるのが分かった。

「う、嘘ばっかり。」

そう、呟くので精一杯。
赤くなった顔を見られたくなくって、俯いた。

「嘘じゃねぇって。ま、信じて貰えないのも、分かるけどよ・・・」

ふと見ると、ハレルヤ君は少し寂しそうに笑っていた。
・・・そんな表情見たことなかったから、
なんだか私、悪いことしたみたい・・・


それからずっと、数ヶ月間、ハレルヤ君は懲りもせず私につきまとった。
慣れとは恐ろしいもので、もう、ハレルヤ君や取り巻いてる不良たちをそこまで怖いとは思わなくなっていた。
ただ、どこにでも居る、ちょっと変わったクラスメイトなんだ、と、思えるようになっていた。

そんな、もうすぐ一学期が終わろうという頃。

いつものように、放課後、私が図書室で本を読み、その横で、ハレルヤ君がぼんやりとしていた。
よっぽど暑いのだろう、ハレルヤ君は下敷きでぱたぱたと扇ぎ、汗でまとわりつく少し長い深緑の髪をかき上げている。

「あちーなぁ。
 なあ、もうすぐ夏休みだろ。
 どっか行くか、海とか。」

そのなにげない言葉に、私は反論した。

「え?
 でも、委員長の任期は学期で替わるから、もう、私、委員長じゃなくなるよ?お付き合いはそれでお終いでしょ?」

そう応えると、ハレルヤ君の顔色が、さっと変わった。
突然、バン!!と、握り拳が机を激しく叩く。
その音に、私はすくみ上がった。

「てめぇ、・・・怒るぞ・・・」

「??」

私には、なぜ、ハレルヤ君が怒っているのか、分からなかった。

「俺が、本当に、委員長だから、ってだけで、てめぇにつきまとってるとでも思ったのか?!」

ハレルヤ君の固く握られた拳が、微かに震えている。
そして、ゆっくりと立ち上がり、私に背を向けた。

「俺にだってなぁ、感情くらいある。」

小さく、でも、はっきりとそう言うと、図書室から出て行った。


あんなに怒ったハレルヤ君、今まで見たこと、無い・・・
それに・・・

私は、ハレルヤ君の言葉を頭の中で反復していた。
・・・どういう、意味・・・?

うぅん、もう、そんなことどうでもいい。
いつもつきまとわれて迷惑だったし。
ちょうど良かったじゃない。
うん。

だけど・・・
なぜだろう・・・
どうして・・私、泣いてるんだろう・・・

私は、本を濡らさないように、机の奥へ押しやり、
ひとりぼっちの図書室で、声を殺して泣きじゃくった。


どれぐらい経ったろう。
室内はオレンジ色に染まり、校庭で部活をしていた生徒達の声も聞こえなくなっていた。
私は静かに立ち上がり、本を直すと、鞄を取りに教室へと向かった。

教室のドアを開けると・・・そこには、ハレルヤ君がひとり、
私の机に腰掛け、窓の外を見ていた。

「は、ハレルヤ・・君・・・」

声にならない声で、必死にそう呼びかけると、
彼は振り向かないままで、

「・・・悪かった、な・・・
 その・・カッとなっちまってよ、あんなこと・・・」

ゆっくりとハレルヤ君は振り返り、

「っ!!
 ・・・泣いてんのか・・・」

私のところへ来ると、綺麗な長い指で、私の涙を拭ってくれた。

「ご、ごめんなさい・・・」

「・・あ・・?」

「私、ハレルヤ君のこと、・・誤解、してて・・・その・・・」

「誤解されても仕方ねーだろ、俺はこんなだからよ。
 だがな、俺・・・
 ・・・俺、本当に、お前と付き合いたいんだよ。
 この気持ちだけは、分かって、欲しい・・・」

あまりにも真面目な申し出に、私は息を飲んだ。
私が、ハレルヤ君と、正式に、・・・お付き合い・・・

私が戸惑っていると、ハレルヤ君も気が気じゃないのだろう、
私の頬に添えてある指が微かに震え、目も少し潤み、揺れている。

まさか、本当に、本気だなんて。
喧嘩番長のハレルヤ君が?!
なんにも取り柄の無い、私と?!
そんな、有り得ない。
・・・でも・・・

私は心を落ち着けると、ハレルヤ君の手を握った。
少し驚いた表情のハレルヤ君。

「・・・うん、分かった、・・・・お、お付き合い、・・する・・・」

小さい声でそう呟くと、ハレルヤ君が一層驚いた顔をして、
・・・そして、いきなり、ぎゅっ、ときつく抱き締められた。

「・・・大事に、する・・・」

その言葉が嬉しくて、私は、何度も、うん、うん、と、頷いた。



翌朝。
ハレルヤ君が途中まで迎えに来てくれていて、ちょっとビックリしつつも、
私たちは手を繋いで登校した。

学校に近づくにつれ、生徒が多くなり、
皆、私たちを見て、驚いているようだ。

それもそうだよね、一番驚いてるのは私自身なんだから。

クラスに着くと、クラスメイトが興味津々で色々訊いてくる。
「いつから付き合ってんの?!」
「どっちから告白したの?まさかさん?!」
「ハレルヤ君が今までつきまとってたから、ハレルヤ君じゃない?」
等等・・・
私は曖昧に笑い、ハレルヤ君は、うるせー、と邪険に扱っていた。

少し遅れて、ハレルヤ君の仲間が入って来た。
「よう!ハレルヤ、やったなお前!」
「ちくしょー、賭けに負けたぜ!」

「アッ、馬鹿!!」

慌て出す、ハレルヤ君。

「・・・え・・、賭け、・・って・・・?」

不審そうな顔をする私に向かって、

「ハレルヤと賭けたんだよ、こいつが、お前に告白して、OK貰えるかどうか、ってね。
 俺たちは、絶対無理!つってたんだけどなー。」

そう笑いながら暴露する友達に、ハレルヤ君は

「黙ってろッ!!」

と、蹴りをいれる。

・・・賭け。
ああ、なんだ。
やっぱり、からかわれただけなんだ。
それなのに、舞い上がっちゃって。
・・・馬鹿みたい・・・

私は耐え切れず、教室から飛び出した。

「ちょっと、?授業始まるよ?」

仲の良い女友達の声がしたけれど、無視して廊下を走った。
泣きながら、走った。



授業開始のチャイムが鳴って、だいぶ経った。
・・・初めて、授業、さぼっちゃった・・・
時間は経っても、なかなか涙がおさまらない。
トイレで顔を洗うけど、鏡に映る顔は泣き腫らしてて、後から後から涙が出てくる。

その時。

バーーン!!

トイレの扉が勢いよく開かれた。
驚いて見ると、ハレルヤ君が、息を切らして、中に入って来ている。

「えっ?!ちょっ、ハレルヤ君、ここ、女子トイレ・・」

「そんなの関係ねーーよ!!!」

私の言葉を遮るように、怒鳴るハレルヤ君。
そして、昨日みたいに、ぎゅっ、と、抱き締められた。
押し当てられた耳に、ハレルヤ君のどくどく鳴る早い鼓動がダイレクトに伝わる。
どれだけ走り回ってくれたんだろう・・・

「悪かった。賭けなんかして。
 ・・・話、聞いてくれるか?」

こくり、と頷くと、
ほーー、と、ハレルヤ君の安堵の吐息が聞こえた。

「・・ここ、出ようぜ。」

手を引かれ、向かった先は、屋上。
ハレルヤ君と、こんな関係になったのは、ここが最初だったな、と、ふと懐かしくなった。

「こんなに、泣いちまって・・・」

ハレルヤ君は、私の頬に触れると、

「すまねぇ。」

まるで、泣きそうな顔をして、謝った。

「・・・コレ。」

そう言われて差し出されたのは、私の好きなジュースのパック。
いつも私がお昼に飲んでたのを、いつの間にか、毎日ハレルヤ君が買ってきてくれるようになったジュースだ。
私の好きなものを覚えてくれている、ということが、嬉しくて、胸がきゅんと締め付けられた。

「ありがとう。」

そう応えて、ストローをさし、一口飲むと、少し落ち着いた。


炎天下の屋上。
涼しい日陰に腰掛け、ハレルヤ君は私を包み込むように抱き、髪や頬を撫で、落ち着かせてくれる。

「俺さ。あの時が、きっかけじゃ、ねーんだ。」

「え?」

「委員長が付き合ってくれたら、授業に出る、つった時。
 あの時より、ずっと前から・・・のこと、好きだったんだぜ?」

「嘘っ?!」

「嘘じゃねーって。
 ま、信じらんねーのも、無理ねーけどな。」

私は、ハッとした。
また、ハレルヤ君を信じようとしていない自分。
また、ハレルヤ君を傷つけてしまった自分。
自分の愚かさを思い知る。

「ごめんなさい。
 ・・・信じるよ。
 ・・・でも・・信じられない。
 だって、ハレルヤ君が、私なんかを・・・」

私の言葉に、ハレルヤ君は、ふっ、と、自嘲気味に笑った。

「そりゃぁ、こっちの台詞だっつーの。
 俺みてーな不良なんか、超真面目なとじゃ、釣り合わねー、って。
 何度、諦めようと思ったか。
 でもな・・他の女になんか、これっぽっちも興味涌かなかったぜ。
 それで、・・・俺が、に告白しよう、って決心した時にさ。
 あいつら、絶対断られるに決まってる、賭けてもいい、って、笑ったんだ。
 こっちも腹が立ってよ。
 俺は絶対OKして貰うんだ!って。そう、賭けたんだ。
 ・・・嫌な想いさせちまって、・・・悪かったな・・・」

私を抱くハレルヤ君の腕の力が強くなる。
まるで、絶対に離さない、そう言ってるみたいで・・・
私は、ふるふると首を振った。

「私こそ、・・疑って、ごめんなさい。
 てっきり、からかわれてるのかと・・・」

また、ハレルヤ君は、ふっ、と笑った。

「だよな。そう考えるよな、普通。
 でもよ、これだけは信じて欲しい。
 俺は、が好きだ。」

私の目を見て、真剣な表情でそう伝えてくれるハレルヤ君。
その言葉に、表情に、綺麗なオッドアイに、嘘は見えない。

「うん。信じる。
 ありがとう。私を、好きになってくれて。
 私も、ね、・・ハレルヤ君が、・・好き。」

頬が熱くなるのを感じながら、懸命にそう伝えると・・・
ハレルヤ君はビックリした顔をして、
それから、また、ちょっと泣きそうな顔になって、
そして、私のファースト・キスを奪った。

☆☆☆

きっとハレルヤは、女遊びはしてても、本気で好きになった女の子には、素直に告白出来ないと思う。
なので、こんな、ちょっと遠回りをさせてしまいました☆
今回、SB高校喧嘩番長を書いてみて、案外本編のハレルヤを書くよりも妄想が膨らみ、書きやすかったので、もしかしたら続編がある、か、も??

↓宜しければ感想などどうぞ♪


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