擬似体験



「先輩〜〜待って下さいよぉ。」あははは……
――高校生カップルを眺めていたのが、きっと、この発端だったと思う。

私、。高校2年生。
最近、兵部京介さんとお付き合いはじめた。
…と言っても、私の前世から、恋人だったのだけれど。
京介さんは、今、80歳。とてもそうは見えない、若い容貌で、外見からは年齢差を殆ど感じさせない。
それでも、年上だからなのか、とても包容力を感じる。
(時々、私より子供かも、と思ったりもするけれど…)

あの時私が、そのカップルに対して感じた事を、きっと京介さんは悟ってくれてたのだろう。
だから、あんな事に……

、きっと、叶えてあげるよ。」
京介さんは唐突に、そう言うとにっこり笑った。
「?」
何がなんだか…よく分からないけれど、京介さんが笑ってくれた事が単純に嬉しくて、私も笑った。

私を家まで送り届けてくれると、京介さんは風のように消えていく。
「…また、明日ね…」
心に直接、京介さんの声が響いた。


翌日。
いつもと同じ学校の放課後、誰もいなくなった教室で一人、私は、ぼんやりと、西に傾きかけの太陽を眺めていた。
。」
突然、私にとって、とても心地良い声が聞こえた。
でも、まさか。
学校で聞くなんて。気のせいに決まってる。
「気のせいだなんて。ここにいるよ、。」
「!!京介さん?!!」
ぼーっとしていた思考をフル回転させ、目の前にいる、居る筈のない姿を見つけて唖然とした。
「ど、どうして…学校に?!!」
「だって、。こういう、『普通の高校生の恋人同士』に憧れてるんだろ?」ニッコリ。
!!!
昨日の事、見てたんだ。
こういう、なんでもないところをちゃんと見てくれていて、その上、
当たり前のように実行してくれる京介さんに、とても胸が熱くなった。

「!京介さん、それ…うちの制服?!」
そう、よく見ると、京介さんのトレードマーク・学生服が、うちの高校のものになってる!!?
「あぁ、コレ?仕立ててみたよ、あはは。」
愉快そうに笑うと、
「でも、。ダメじゃないか。ちゃんと、『先輩』って言わなくちゃ。」
「!!」
そ、そーいうコト…?
なんだか、ヘンなイメクラみたいだな、なんて頭の隅で思いながらも、ちょっと嬉しくも思う。
「ん…と。…兵部先輩…?」
とたんに、京介さんの顔が真っ赤になる。
思ってた以上に照れたらしい。
そんな京介さんがとても可愛い!
私はつい調子に乗って、言葉を続ける。
「兵部先輩、あの、私…先輩のコト……」
…」
京介さんは、わざと真面目な顔をして、のってくれる。
「あの…私、先輩が好……!!」
そのとたん、京介さんがいきなり手を取り、体を密着させて来た。
「ダメだ。」
「え?」
「…押し倒したい。」
「!!!!だ、ダメですよっ先輩ッッッ!!!!」
私は焦って止める。
京介さんはちょっとつまらなそうな顔をして、私の唇に軽くキスを落とした。
「…そうだね。ここじゃダメだよね。
…ふふっ。じゃぁ、帰ろうか。」
改めて私の手を取り直すと、てくてくと下駄箱の方へと歩いていく。

なんだか、こうやって校舎の中を、手を繋いで歩いていると、本当に高校生の恋人同士みたい。
そう考えると、耳まで真っ赤になってしまう。

もう少しで下駄箱、というところで、厳しい事で有名な鬼教師とバッタリ鉢合わせ☆
先生が、本当は在籍するはずの無い男子生徒を不審そうに見つめる。
「何だ、お前は?見かけない生徒だな。何年何組だ?」
京介さんは慌てるコト無く、
「やだなぁ先生。僕ですよ、兵部京介です。」にっこり。
「ん、そうだったか…気を付けて帰れよ、兵部。。」
はぁ〜い、と、気の抜けたような返事をしつつ、ぺろりと舌を出しながら、京介さんは私の手を引いて歩き出した。

きっと、催眠能力を使ったんだわ。
でも…本当に高校生みたいだ、京介さん。
見た目も若いし。。。

そんなコトを考えながら、私は京介さんに手を引かれたまま、学校をあとにした。


帰宅途中、デート中の高校生カップルをやはりよく目にする。
彼女たちを見ながら、京介さんも同じように振舞おうとしてくれる。
それが嬉しくって、私はつい舞い上がってしまい、京介さんの手を引っ張った。
「兵部先輩。アイス食べよっか。それとも、ハンバーガー?あ、クレープもいぃなぁ!」
「よし、じゃぁ全部食べよう!」
えーーっ!??と言いつつも、京介さんが買ってくると、すべてをふたりで頬張ってしまった。
お腹も満たされたけれど、心も満たされたみたい。


。」
いつになく真面目な口調と、熱のこもった瞳で切り出した。
「?なぁに、兵部先輩?」
「こんな、にとっては当たり前の付き合いが出来ずに…ごめんね、。」
「!!そんな…」
には、同じ年頃の彼氏が必要じゃないのかな、なんて考えたりもするんだけど…
僕がを離したくないからね…やっぱりこのままの付き合いしか出来ないんだ、…すまない。」
少し陰のある、申し訳無さそうに呟く京介さんを見てると、手放しで喜んでいた自分がとても考え無しに思えて、自分自身に腹が立った。
「そんな、京介さん…そんな風に感じないで。
私のワガママだったの。
私は、ただもう、京介さんと一緒にいられるだけで、それだけで幸せなんだから。
そんな…そんな事、言わないで。。。」
京介さんの伏せていた顔に自分の右手を添える。
頬がひんやりとしていて、手のぬくもりが京介さんに吸い取られていくみたいだ。
このまま、私ごと全部、溶け合えたらいいのに。。。

。君は…。
本当に、僕でいいんだね?僕はこんなだよ。もうそんなに若くは無いし、普通の生活は出来ない。
それでも…君は…」
「それでも!私は京介さんが好きなの。
前に恋人だったから、ていうのもあるかも知れないけれど…
そんなの関係無い位、今、私が京介さんを好きなの。
これは、私の意志なんだから。
だから、京介さんと一緒に居たい。お願い、一緒にいさせて。。。」
私は、懇願するように、京介さんにしがみついた。

京介さんは、そんな私をそっと抱き締めてくれた。
腕から伝わる、京介さんの優しさが胸に痛かった。

もう、何も望まない。
京介さんと一緒にいられるだけで、それだけでいいんだから。。。


おしまい。


なんでしょうね。
もっと、軽いノリで書いてたんだけど。。。暗い話になってシマッタ☆
けど、アレです。
大好きな人には普通の生活をさせてあげたい、てゆー気持ちと、
やっぱり好きな人と一緒に居たい、とゆー気持ちの葛藤を描きたかったとデス。

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