さくら
が熱を出した。
日本から離れて1ヶ月・・・疲れが溜まったのだろうか。
セバスチャンが、眠っているの額にあてたタオルを取り替えていると・・・
「・・・お母様・・・」
日本語で、うなされるようにささやく。
頬を一筋の涙が濡らした。
・・・まいりましたね・・・
セバスチャンは、ほう、と溜息を漏らした。
・・・ホームシック、というやつですかね・・・
・・・さて・・どうしたものか・・・
執事室に戻る途中、タナカさんの傍を通り・・
「!・・・タナカさん。
ちょっと、ご相談したいコトがあるのですが・・・」
数日後。
の熱もすっかり下がった。
そんなの部屋の一部に、畳が敷かれた。
「セバスチャンさん・・これは・・・」
「日本では、こうやってくつろぐのでしょう?」
畳の上で、長い脚を投げ出し座るセバスチャン。
「タナカさんに教えて貰いました。」
そう言って、に向かってにっこりと笑う。
つられて、も微笑む。
「さあ、お茶を淹れましょう。
それも、玉露ですよ。ふふっ」
「うわぁっ」
満面の笑みを浮かべ、はセバスチャンの隣りに正座した。
ひとくち、玉露を口に含み・・
「美味しい・・」
日本を懐かしむかのように、目を閉じて味わう。
隣りで、セバスチャンは少し心配になってきた。
タナカさんに助言を貰って、の部屋に小さな日本を作ってはみたが・・・
「・・様。」
「はい?」
「・・帰りたいですか?日本に・・・」
「・・・・」
少しの、沈黙。
その時間が、セバスチャンにとっては、とても長く感じられた。
が居なくなってしまったら・・・
自分は、平気でここに居られるだろうか?
の居ない生活が、考えられるだろうか・・・?
「・・セバスチャンさん。
答えは、いいえです。
それは、日本は好きです。故郷ですから。
でも、今は勉学の為に、せっかくこちらに来ているのですから・・・
それに・・
セバスチャンさんもいらっしゃいます。」
は照れたように、頬を染めながら、にっこりとセバスチャンへ微笑みを向けた。
その返答に、どんなにセバスチャンは安堵したことか。
それ以上に、自分の存在がの中で大きくなっていることに気付き、嬉しくも思った。
「そうですか。
それは良かった。
私も、全力でサポートさせて頂きますよ。
ああ、それから・・・」
傍から、さくらの花を活けた花瓶を取り出した。
「日本を代表する花。sakura、と言うのでしょう?
ここに飾っておきますね。」
ナイトテーブルの上に花瓶を置き、を振り返ったセバスチャンは、ぎょっとした。
が泣き出していたのだ。
「い、いかがなさいましたかっ?様っ。」
「いえ・・嬉しいんです・・
こんなに良くして頂いて・・・
わたくし、幸せものですわ。
セバスチャンさん。
本当に、ありがとうございます・・・」
潤んだ瞳で見つめられ、どきりとするセバスチャン。
頬を伝う涙を、セバスチャンの白い手袋がすくった。
「様。
私もうれしゅうございます。
そんなにお喜び頂いて・・・
さあ、お体に障ってはいけません。
もう少しおやすみになられてはいかがですか?」
セバスチャンの言葉に素直に従い、はベッドへと入った。
・・・まさか、ここまで・・
この娘の言動が私に影響を及ぼすとは・・
思いませんでしたね・・・
の存在をさらに大きく感じた、セバスチャンであった。
おしまい。
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日本から英国に渡るなんて、そりゃあ大変なことだろうと思って。
気遣いの出来る男・セバスチャン・・・
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