5涙のあと


「宮田さん!
 来てくれたんですね!」

空手の県大会会場。
がオレを見つけ、駆け寄ってくる。

「すっごく嬉しいです!
 私、頑張りますね!」

「あぁ、頑張れよ。」

にっこりと笑うにつられて、オレも少しだけ笑う。
ふ、と気がつくと・・・

「た、鷹村さんッ?!!」

の後ろには、
鷹村さん、木村さん、青木さん、幕之内という、いつものメンバーが。

「おう、宮田。
 遅かったじゃねーか。
 ま、かろうじて、ちゃんの試合には間に合ったがな。」

「アンタら、いつから・・・」

「あぁ?最初っから居るぜ?
 なんせ、オレたちのアイドルちゃんの試合だからなあ〜」

にやにやと笑う、鷹村さんたち。
く、くそう・・・
こんなことなら、ロードワークの時間ずらして、早めに来れば良かったぜ!

「あ、もうすぐ試合ですから。
 また後で。」

は、オレたちに一礼すると、コートの方へ去って行った。


「なぁ、知ってるか?宮田。」

鷹村さんがおもむろに問いかける。
絶対くだらないことだ。

「なんスか。」

ちゃん、けっこう色んな人から告白されてるらしいぞ。」

「!!!」

オレは不覚にも驚いてしまった。
こないだ、ラーメン屋で「こんな空手バカと付き合ってくれる人はいない」と
が言ってたばかりだったから、安心しきってたのだ。
そういえば・・・街で待ち合わせした時も、男たちがを見てたな・・・

「ほら、あそこ見てみろよ。」

鷹村さんが顎をしゃくった先に、
と同じ学校の男子生徒が試合をしていた。

「アイツ、ちゃんと同じ空手部の主将らしいんだが、
 ちゃんにずっとアタックしてるらしいぞ。」

オレは言葉も出なかった。
同じ空手部ってことは、一緒に練習してるってことじゃないか・・・

「でもなぁ、ちゃんは毎回断ってるってよ。」

さんはけっこうモテるみたいで・・・
 狙ってる人はあの人だけじゃないらしいよ。」

幕之内も言葉を挟む。
オレは不機嫌度マックスで、鷹村さんや幕之内を睨みつける。

「おっと、そんな怖い顔すんなって!
 オレ様が良い事を教えてやろう。」

鷹村さんが肩を組んできた。

「ンだよ。どーせロクでもないことでしょーが。」

「ふん。
 ちゃんはなあ、
 以前は、『今は誰とも付き合うつもりはない』って断ってたらしいんだが、
 最近は、『好きな人が居るから付き合えない』って断ってるらしいぞ。
 これって、オメーのことだろ、宮田ぁ。」

鷹村さんが、にやにやしながら教えてくれる。

「良かったなぁ〜〜両想いだぞ〜〜」

ガハハ、と高笑いする。

オレは、鷹村さんの言葉に絶句した。
ほ、本当だろうか・・・
そういえば、こないだラーメン屋で、
付き合うならオレがいい、って、本人も言ってたしな・・・

オレが淡い期待を思い描いていると・・・

「ぶわぁーか、なーに本気になってんだ!
 相手は宮田と決まったわけじゃないだろー!
 玉砕しろ、玉砕!わはは!!」

と、笑いものにする。
この人は、どこまで本気なんだか・・・
けどまあ、良い情報を貰ったぜ。


そろそろの試合が始まる、というんで、
試合コートの付近にオレたちは陣取った。


「ふーん。
 ちゃんは強いんだな。」

の試合を見て、鷹村さんが、感心したように唸る。
そうか、この人たちは、の組手を始めて見るのか。

「あぁ、は強いですよ。
 オレもやられました。」

「え?!み、宮田君が?!!」

幕之内が大げさに騒ぐ。

「あぁ。頭に一発、回し蹴りを喰らったぜ。」

すると、鷹村さんたちは大笑い。

「こりゃあいい。
 宮田を足蹴に出来る子なんてそうそういないからな!」

くそ、いつまでも笑ってな。
苛立ちを抑えつつ、黙って、の試合を見ていた。



何試合か終わり、
は3位、という結果で終わった。
胸には、銅メダルと賞状が輝いている。

「おめでとう、さん!」

幕之内が満面の笑みでを迎える。
鷹村さん、木村さん、青木さんも、おめでとう!と、笑顔で称える。
青木さんは、

「今度、お祝いラーメンご馳走するぜ!」

とまで言い、
それにつられて木村さんも、

「おっ、じゃあ、オレはお祝いの花を贈るぜ!」

と言う。
そんな3人に対し・・・

「はい・・・ありがとうございます・・・」

若干、元気の無い様子で、はお礼を述べた。
オレは、そんなが心配になり、

「・・・家まで送るぜ。
 外で待ってるから、着替えて来いよ。」

「あ、でも・・・部活の人たちと・・・」

オレは、例の主将がを狙ってる、と言うことを思い出し、
イヤな気分になった。

「だよな。部活のやつらと帰るのが普通だよな・・・
 でもよ。オレ、待ってるから。」

殆ど睨みつけるような目でを見ると、
今にも泣きそうな瞳で、こくり、と頷くと、

「・・・すぐ、着替えて来ますから・・・」

と、力なく更衣室へと向かって行った。


「おい、どーしたんだ?ちゃんはよぉ?」

鷹村さんが、無神経そうに訊いて来る。

「知らないのか?
 ・・・次の全国大会に出場出来る枠は、2人なんだ。」

「・・あ・・」

鷹村さんをはじめ、木村さんたちがしまった、という顔をする。

「3位じゃ、ダメなんだ。
 2位までに入らないと・・・。
 ・・・多分は、今日で、引退、だろうな・・・」

オレが溜め息交じりにそう呟くと、
後は任せた!と、4人は逃げるように帰っていった。

実際、オレも、何て言っていいのか、分からなかった。
制服姿のが出てくると、オレたちは無言で試合会場をあとにした。


「・・・惜しかったな・・・」

しばらく歩いたところで、ぽつり、と、オレが呟くと、
は、無言で頷いた。
その足元には、ぽたり、ぽたりと、涙が滴り落ちる。

オレは黙っての肩を抱くと、近くの公園のベンチに腰掛けた。

「最後の大会だったから、ひとつでも多く勝ちたかったのに・・・
 あんなに練習したのに、・・・届かなかった・・・」

声を押し殺して泣く
よっぽど悔しいんだろうな・・・
引退がかかった試合だったんだから、当然か・・・

「なぁ、
 今までは、空手一筋だったよな。
 今度は、別の目標を立てようぜ?」

「別の、目標・・・
 ・・・受験・・・?」

俯いたままで、ぽつり、と呟く。

「・・・受験もいーけど・・・
 こーゆーのはどうだ?」

の頬を、両手で包んで、俯いた顔をオレの方へ向けさせる。
涙で、オレの掌が濡れる。

「オレの応援。」

「・・・宮田さんの・・・応援・・・?」

きょとん、と瞬きしたの瞳から、新しい涙がこぼれる。

「でも、宮田さんの応援なら、私、いつも・・・」

オレは、の言葉を遮るように、
柔らかく包んだの顔へ自分の顔を寄せ、
ゆっくり、確かめるように、くちびるを重ねた。
惜しむようにくちびるを離し、

「・・・恋人としての応援、てこと。
 ・・・どうだ?」

有無を言わさないように、ちょっと高圧的に言い放つ。
は、びっくりした顔を真っ赤に染めて、オレを見つめる。

「・・・えっ・・・あの・・・わ、私が・・・
 み、宮田さんの・・・こ、恋人、って・・・?!」

「イヤか?」

少し意地悪く笑うと、
ぶんぶんと首を横に振る。

「・・・で、でも・・・
 私、宮田さんの他のファンの子たちみたいに綺麗じゃないし・・・
 釣り合わないんじゃ・・・」

オレはゆっくり立ち上がり、
を見下ろし、手を差し伸べた。

「そんなの全然関係無いね。
 アンタがいいんだよ。。」

は、信じられない、といった顔をして、そして、
今までの涙をハンカチで拭うと、
オレの手を握り、

「はい!」

と、笑顔で返した。



こうして、オレとは、付き合うことになった。




☆☆☆

良かった!
ようやく彼氏彼女までもってこれました!
しかし・・・
「好きだ」も「付き合おう」も言わずいきなりキスする宮田君素敵すぐる。


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