6ハーブティー


が部活を引退してから、
ロードワーク途中でと会う機会が無くなってしまった。
放課後か練習後じゃないと会えない、というのが、不満だった。
は受験生ということもあって、なかなか自由に会えないのも、悩みのひとつだ。


ここ数日、と会えない日が続き、
そろそろ会いに行くかな、と思っていた矢先、
ロード途中のコンビニで、の姿を見かけた。
学校帰りだろうか、制服姿で、何かを真剣に読んでる。

オレは休憩がてら、コンビニに入ると、の後ろに立った。
は、ジャンプを読んでるようだ。

「よう。」

オレが声を掛けると、酷く驚いた顔をして振り向いた。

「あっ!宮田さん!
 こんにちは!ロードワークですか?」

「まあね。」

付き合って少し経つというのに、
は未だにオレを「宮田さん」と呼び、敬語で話す。
これも、ちょっとした悩みだった。

「何、読んでんだ?」

ひょい、と覗き込むと、
『ジョジョの奇妙な冒険』
だった。

「相変わらず好きだな、そーゆーの。」

苦笑まじりに呟くと、

「もう、続きが気になって!
 受験が終わるまでは読まない!て決めてたんですけど、
 続きが気になって勉強どころじゃなくって・・・」

照れ笑いをしながら雑誌を棚に戻した。

「あの・・・家に寄って行きませんか?
 美味しいハーブティー、出しますよ?」

は、少し頬を染めながら、誘ってくれた。
オレは、がそんなことを言い出すなんて思ってもいなかったから、
正直驚いた。

「サンキュ。
 でも、まだ練習残ってるんだ。」

「そう、ですよね・・・」

しょんぼりする

「なあ、練習の後、行ってもいいか?」

オレの言葉に反応して、満面の笑みで、

「はい!」

と答えてくれた。

オレの言葉ひとつで一喜一憂するが可愛い。
オレたちは、またあとで、と、別れた。



練習後。
シャワーを浴び、ジムを出る。
父さんから

「どうした?機嫌良いな?」

と言われた。
バレバレ、か。


の家は、何度も彼女を送って行ったことがあるから知っているが、
中に入るのは今日が初めてだ。
両親や、確か弟が居たはずだ。
少し緊張しながら、インターフォンを押した。

が玄関を大きく開け、

「どうぞ」

と中へ入れてくれる。

「お邪魔します。」

と、家族の人に聞こえるように少し大きめの声で挨拶をした。
だが、返事が無い。
不思議に思っていると・・・

「あの・・・
 父も母も仕事なんです。
 父は出張で、母は夜勤です。」

「・・・そっか。
 でも、弟が居たろ?」

「弟は、全寮制の学校だから、ずっと居ないんです。」

ふ〜〜ん、と答えて、・・・
オレは驚愕した。

・・・え、ということは、
ふたりっきりなのかッ?!


2階の、の部屋に通されると、
は、お茶を淹れてくる、と言って、下へ降りていた。


・・・なんだか、イケナイことをしてるみたいで、そわそわする。
試合前でもこんなに緊張したことは無い。
落ち着かず、きょろきょろと室内を見回す。
そういえば、女の子の部屋なんて来たのは初めてだ。

大きなくまやパンダのぬいぐるみ、ピンク色のクッション。
ベッドカバーも花柄で、いかにも女の子の部屋だ。
だが・・・
本棚に並んでいるのは、
『ジョジョの奇妙な冒険』
『鉄拳チンミ』
『コータローまかりとおる!』
などなど・・・格闘漫画ばっかりだ。
壁には、なんとヌンチャクまで掛かってやがる。
土産屋にあるような布製では無く、チェーンが金属の、本物のやつだ。
・・・どんだけ好きなんだ、コイツは・・・

オレは呆れつつ、更にデスクに目を移すと・・・
そこには、可愛くリボンがあしらわれたフォトフレームに、
オレの写真が飾られていた。
よく、対戦相手や記者さんに渡してた写真だ。
幕之内がにやった写真、て、これのことか・・・
オレは思わず手に取った。
ピンク色のリボンとオレの写真とゆー不似合いな取り合わせが、
何故かこの部屋にはしっくりくる。


ガチャリ。

「あっ!
 は、恥ずかしいから、あんまり見ないで下さい!」

入ってきたは、慌ててお茶をテーブルに置き、
オレからフォトフレームを取ろうとした。
が、現役プロボクサーにかなうわけがない。
オレは、ひょい、と、の届かない所に手を上げた。

「あっ!ダメです!」

はオレにしがみつき、懸命にフォトフレームを取り返そうと手を伸ばす。
体が密着しすぎて、オレは思わずどきりとした。

「宮田さん、いじわるしない・・で・・・・!」

オレはたまらず、フォトフレームを持たない手で、
の腰をぐい、と自分の方へ引き寄せた。
驚いた表情の

フォトフレームをデスクに戻すと、
今度は両腕でを抱き締めた。

「好きだ。」

貪るように何度も、の唇を奪う。
恥ずかしそうに、だが、オレのキスに応える

好きだ、好きだ、好きだ。

オレにこんな感情があるのか、と、
自分でも驚く。

キスの合い間に聞こえるの吐息がオレの欲情をかりたてる。
オレはなるべく優しく、をベッドに押し倒した。

「なあ、・・・いいか・・・?」

「・・・そんなこと・・・
 聞かないで、下さい・・・」

消え入りそうな声で、真っ赤な顔をして答える
自制がきかず、この日、オレはの処女を奪った。



冷えたハーブティーを、静かに飲む。
さっきまでの熱い気持ちを鎮めるように。
も、喉が渇いていたのだろう、一気にお茶を飲み干した。

「悪かった、な・・・
 その・・・いきなりで・・・」

オレの部屋ですれば良かった、と、少しばかり後悔していた。

「あっ・・謝らないで下さい。
 ・・・嬉しかったですから。
 宮田さんのモノになれて・・・」

恥ずかしそうに俯く
だが、ひとつ、不満があった。

「なあ、いい加減、宮田さん、て呼ぶの、やめろよ。
 さっきみたいに、一郎、って呼んでくれ。」

そう。
最中には、何度も、一郎さん、と呼んでくれていたのだ。

「え・・・う・・・
 じゃ、じゃあ・・・
 い、一郎さん・・・」

照れ臭そうに、耳まで赤くしてオレの名前を呼ぶ。
本当は呼び捨てがいいんだけど、まあいいか。

「敬語もやめろよな。
 だいたい、同じ年だろ。」

「えー、無理ですよ!
 だって、憧れの宮田さ・・じゃなかった、一郎さんですよ?!
 恐れ多い!!」

・・・その、『憧れの宮田さん』が、タメ口でいい、つってんだけどな。
オレは呆れて溜め息を吐いた。

「き・・嫌いになりましたか・・・?」

恐る恐るオレの顔を覗き込むに、オレは苦笑した。

「バーカ。そんなんじゃねーよ。
 ちょっと呆れただけだ。」

オレは思いっきりを抱き締めた。
少しずつ、すすんでいけばいいか。




☆☆☆

わーお宮田君手出すの早いすね!
いやでも早くしないと後々支障が・・・
(海外行ったりしますからね!)


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