7お見舞い
間柴戦で敗けてから、数日が経った。
オレはと言うと、検査も兼ねて、入院している。
は、試合をリング傍で見ていたし、
その後、医務室前にも来てくれてたらしいが、
未だ、直接会っていない。
どんな顔して会っていいのか、分からない。
オレは、ベッドの上で、固定された脚を恨めしく睨み、
そして、サイドテーブルの水を飲もうと、手を伸ばした。
その時・・・
開けっ放しにされてあった扉の傍に、が立っていた。
心配そうな面して、オレを見ている。
「・・・よぉ・・」
自然と声が出ていた。
なんだ、ちゃんと会えたじゃねえか。
内心、ほっとした。
は軽く一礼すると、室内に入り、オレが示した椅子に腰掛けた。
「あの、コレ・・・」
いっぱい貰ってるかも知れないけど、と、
小ぶりの花束と、フルーツ盛りを差し出してくれた。
「サンキュ。
気ィ遣わせちまって、悪いな。」
受け取った可愛い花束が、らしくて、ふ、と、自然に笑えた。
「それで・・脚の具合は、どうですか?」
自身もスポーツ選手だったせいか、余計に気になるんだろう。
「心配無ぇよ。しばらく大人しくしてれば治る。」
「ほ、ほんとに?!」
ぐいっ、と、が詰め寄る。
そんなの手を、ぐっ、と握ってやった。
「安心しろって。ちゃんと脚は治るから。」
「そうよ、。」
突然、扉の方で声がした。
目をやると、看護師長さんだった。
「師長さん・・・」
「お母さん・・・ほんと?」
「本当よ、。宮田さんの怪我は大丈夫だから。」
師長さんは、室内に入り、にそう語りかけた。
・・・て、ゆーか。
「え?!
お、お母さん、て?!」
「あの・・・、一郎さん、
うちの母なの。」
よろしく、と微笑む師長さんの名札には、確かに、
『』と書かれてある。
の母さんが看護師をしてる、ってのは知ってたが、
まさかここの看護師長さんだったとは・・・
・・・マジか。・・・
師長さんはオレの棟の担当だし、しょっちゅう顔を合わせてる。
ハッ!!と、ゆーか!!!
「あっ、あのっ・・・
オレ、さんと、お付き合いさせて貰ってます。
宮田一郎と言います!」
慌てて頭を下げた。
ああ、もっとスマートに出来ないもんだろうか・・情け無い。
すると、師長さんは、ふふっ、と笑い、
「こちらこそ、うちの娘がお世話になって・・・
空手バカですけど、宜しくね。」
それじゃあ、と、病室を出て行った。
師長さん・・もとい、の母さんの後ろ姿を見送り、
ぐいっ、と、に詰め寄る。
「なんで話してくれなかったんだ!師長さんがの母さんだ、って!」
「な、なんで、って!
だって、今、会ったばっかりですし!!
そ、それに・・・入院してるって教えてくれなかったの、一郎さんの方じゃないですか!」
は泣きそうになりながら、珍しく反抗した。
「ジムに行ったら、案の定、居ないし・・・
お父さまに聞いたら、入院してる、って・・、それで・・・」
後は、俯き、涙の所為で声が出せないようだった・・・
「・・・・わ、悪かったよ・・・
オレも、負けて、悔しくて、怪我して、情け無くて・・・」
オレは、父さんを思い出していた。
一度の敗戦、怪我で、・・・引退・・・
オレは、・・・この先、どうなるんだろうか・・・
突然、が、涙目のまま、オレの手をぎゅっ!と握り締めた。
「一郎さん!
怪我が治ったら、再起、しますよね?!」
「・・・・・」
オレは、の目を見つめるだけで、返事は出来なかった・・・
「私、・・・負けて、引退する悔しさ、知ってます。
引退したら、もう、・・・好きな空手が出来ないんですよ。」
は、力無く笑った。
「他の皆とおんなじように、大学に行く為に、受験勉強して・・・
空手なんて、全然出来なくて・・・
そんな想い、一郎さんには、して欲しくないんです。
いつまでも、ボクシングを、・・・プロボクサーとして、続けて欲しいんです。」
の言葉が、胸に突き刺さる。
そうだ。は、空手をしたくても、もう、出来ないんだ・・・
オレは、怪我さえ治れば、再起、出来る・・・
「サンキュ、。」
オレは、決意を新たに、の手を握り返すと、
優しく微笑むの唇にキスをした。
それからというもの、退院するまで、は毎日見舞いに来てくれた。
「おい、受験勉強は大丈夫なのかよ?」
「はい、大丈夫です。」
にっこりと笑うの手には、大きな紙袋。
もしや、と思ったが・・・
出てきたのは、大量の参考書。
しかも、英語関係が多い。
「私、英語がちょっと苦手なもので・・・」
「も、もしかして、ここで、勉強する、ってーのか?」
にっこりと笑ってるから、そーゆーことなんだろう。
オレは、はぁ、と、溜め息を吐きつつも、
そこまでして会いに来てくれるを有難く、また、可愛いと思った。
が・・・
の書く答えを見ていると、正直、ガッカリというより、イラッとする、と言った方が正解だ。
そこで間違うか普通?!!
オレはハラハラしながら、テキストとを交互に見た。
もう、我慢が出来ない。
つーか、精神的に良くない!
「あーー、もう!!
ほら、貸せよ!そんなにちんたらやってたら、受験に間に合わねーだろ?
オレがみっちり教えてやるからよ!」
は驚いていたが、オレが勉強に付き合ってくれる、と気付いたのか、
とても嬉しそうな顔をした。
が、それは最初のうちだけだった。
「・・・一郎さん、スパルタです・・・」
泣きそうなに喝を入れつつ、オレ達は毎日、英語の勉強をした。
ボクシングから離れて、楽しい、と思ったのは、久し振りかも知れない。
のお陰かも、な・・・
「ありがとな。」
ぼそっ、と、呟くと、
「え?何??」
首を傾げて聞き返す。
こいつとは、離れたくないな。
意外にも、そう思った自分に、自分でも驚いた。
「何でもねーよ。
ほら、次の問題。いくぞ?」
☆☆☆
宮田父も言ってたけれど、宮田君は敗戦に負けなかった。
その原動力にヒロインちゃんがなればなあ、と思って。
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