甘い誘惑


落ち葉が舞う11月。
ロードワーク途中のコンビニに、が居るのが見えた。
どうやら、雑誌を立ち読みしてるらしい。

オレは休憩がてら、コンビニへと足を向けた。

近づいても、はオレに気付かない。
真後ろから雑誌を覗き込むと、
ボクシング雑誌の、オレの記事を熱心に読んでいる。

嬉しく思ったが、記事のオレより実物のオレがここにいるのに、と、
少し複雑な気持ちだ。

こんなに背後に居るのに、まだ、オレに気付かない。
空手家としてどうか、と呆れつつ、

「おい。」

と、声を掛けた。
は予想以上に驚いたようで、

「きゃあ!」

と、可愛い悲鳴を上げ、
振り向き、オレだと気付くと、

「あっ、い、一郎さん!」

慌てて持っていた『月刊ボクシングファン』を、
隠すように棚に戻した。

「えっと!違うの!これは・・・えと、
 そう、『ジャンプ』!
 ほら、『ジョジョ』の続きが気になって、それで、
 『ジャンプ』を立ち読みしてただけなの!」

何故か言い訳をしている

「ふぅん。
 で、オレの記事も読んでた、と。
 背後のオレに気付かないくらい、熱心に。」

オレの言葉に、は、う、と言葉に詰まって、真っ赤な顔をして視線を逸らした。
拗ねた表情も可愛い。

ふ、と、のくちびるが荒れているのに気付いた。
普段、女の子らしいオシャレには気を遣っているのに。らしくない。
それ程、受験勉強が大変なんだろうか。
オレは少し心配になった。


店内の化粧品コーナーに行き、

「りんごといちごと桃、どれがいい?」

と、に訊いた。

「?え、と・・・いちご?」

は状況が分からないみたいだったが、
オレは構わずに、いちごのリップを手に取ると、レジへ向かった。
味がいちごなのか、香りがいちごなのか、オレにはよく分からないが。

会計を済ませると、を連れ、近くの公園のベンチにふたりで腰掛けた。
黄色の銀杏が目に眩しい。

買ったばかりのリップの封を開け、

、顔、こっち向けな。」

と、言うと、
ようやく状況が飲み込めたのか、

「え!い、いいですよ!自分で塗れます!」

と、真っ赤な顔で抵抗する。

「いーから!大人しくしてろ。」

オレは強引にの顎を掴むと、
ゆっくり、ねっとりとリップを塗っていった。
途端に、いちごの香りが漂う。

「こんなにくちびる荒れてたら、キス出来ないぜ。」

悪態を吐くと、
赤い顔を更にいちごのように赤くして、

「・・・いじわる・・・」

と、少し口をとがらせて、呟いた。

そんながあまりに可愛いくて、
オレはたまらずくちびるを奪った。

口内に、いちごの味がする。
このリップは、香りも味もいちごなのか。
まるでいちごを味わうかのように、のくちびるを甘噛みし、舐めまわす。

「んっ・・・はぁっ・・・」

キスが終わると、の甘い声が漏れた。
とのキスは、味も、香りも、声も、甘い。

「い、一郎さんっ・・・
 誰かに見られたら・・・」

潤んだ目で睨まれるが、全然怖くない。
かえってそそられる。

「構わねえよ。それより・・・」

リップ、せっかく塗ったけど、落ちたな。

そう言って、もう一度、のくちびるにリップをねっとりと塗った。
また、すぐに甘い誘惑に負けちまいそうだ。


☆☆☆

宮田君はいじわるで強引だといい。
つんでれー。

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