夢で逢えたら


朝、いつものように鍛錬を終えて朝餉に向かう途中、の姿を見つけた。
「オイ」
後ろから声を掛けると、肩をビクッと震わせ、こちらを向いた。
オレだと分かると、柔らかく笑ったが、心なしかいつもと様子が違う。
「どうした?顔色が悪いが・・・」
気になって頬に手を添えた。熱も無さそうだし冷えてもいない。
「・・あたたかい・・・」
瞳を閉じ、オレの手に自分の手を重ねる。
「・・・何があった?」
オレの言葉にはただ首を振った。
「なんにもないですよ。さ、朝ごはん、頂きましょう」

午後になってもの憂い顔は晴れなかった。
一見普段通りに振舞っている為、他の刀剣たちは気付いてないみたいだが・・・
「倶利伽羅、ちゃんと喧嘩した?」
光忠くらいか、気付いたのは。
「してない」
短く放つと、
「じゃあ、何があったんだろうねぇ?倶利伽羅、何か聞いてる?」
「何も聞いてない」
オレは光忠を睨み付けた。
「倶利伽羅でさえも聞いてないんじゃ、深刻なんじゃないのかな・・・」
光忠の言葉にギクリとした。背中を冷たい汗が流れる。
これはムリにでも聞き出す他ないな。

夜。
の部屋の障子を開けると、既に布団に横になっていた。
「・・・具合が悪いのか?」
「いえ、大丈夫ですよ」
笑いながら起き上がる。
「大丈夫じゃないだろう、思い詰めた顔をして。
・・・オレが何か気に障ること、したか?」
思い当たるコトは無かったが、知らず知らずのうちに何かしてしまったのかも知れない。
「いえ、大倶利伽羅さんは、何も・・・」
また、首を振って否定する。
さすがに頭にきて、布団の横に膝をつき、の肩を強く掴んだ。
「オイ、一体何があった?!オレには言えないのか?!そんなにオレは信用されてないのか?!」
の目が戸惑いと驚きで見開かれる。
「・・オレは上手く伝えることが出来ない。だが・・・オマエには本心を伝えてるつもりだし、オマエにだけは何も隠してない」
うまく言葉が見付からず、もどかしい。
「・・・オレにだけは・・・ちゃんと言って欲しい」
の頬がみるみる桃色に染まり、うるんだ瞳からは一筋、涙が零れた。
親指でなるだけ優しく拭ってやると、少しだけ微笑んだ。
「大倶利伽羅さん」
は掛け布団をめくり、自分の隣りをぽんぽんと叩いた。
そこに入れ、と言うことか??
戸惑いながら布団に入ると、掛け布団を頭から被せられ、二人とも中でごろんと寝転がった。
・・・なんだ??、と思っていると・・・
「・・あの、・・・ね、」
躊躇しながらも、が口を開いた。
「あの、・・・ほんとに、何でもないの」
「何でもないことないだろ、顔色悪かったし元気なかったぜ」
ジッ、と睨むと、
「・・・ほんとに・・・くだらないことなの。怖い夢を見て・・・」
「夢?」
「大倶利伽羅さんが、居なくなる夢。私、本当に恐ろしくて、目が覚めても、本当に大倶利伽羅さんが居なくなったらどうしよう、って、もうそればかり考えてたの」
オレはホッとしたような、胸が締め付けられるような、気がした。
「くだらなくない」
をギュッと抱き締める。
「オレはどこにも行かないし、死ぬまでずっと傍にいる。もし死んだとしても、刀剣としての傍に居る。オマエが振ってくれたら、そんな幸せなことはない」
オレの言葉に、瞳をもっと潤ませ、うんうんと頷いた。
「だから・・・」
の頬に自分の頬をすり寄せ、
「だから、安心しろ。なんにも気にせずゆっくり眠れ。オレはここに居るから」
低く、小声で囁く。
「・・・ほんと?」
も小さく訊く。
「あぁ」
頷くと、の細い腕がオレの背に回り、弱々しく抱き締めてくれた。
「おやすみなさい、大倶利伽羅さん」
「・・・あぁ、おやすみ・・・」
昨夜は悪夢であまり眠れなかったのだろう、しばらくすると、寝息が聞こえ始めた。
自室に戻っても良かったが、やはりが気になる。
このままここで夜を明かそう。
アイツらからはまた、からかわれるだろうが・・・
オレの腕の中ですやすや眠るを見て頬が緩んだ。
なんて甘いんだオレは。自分でも可笑しく思う。
だが、こんな自分もそう悪くはないか。
自嘲しながらオレも瞳を閉じた。

夢で逢えたら、もっとうまく伝えよう。
ただオマエが好きなだけなのだ、と。



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