飴
ある日。
が、輪のサーカスを見に行きたい、と言い出した。
「輪のサーカス、ですか・・・・」
はっきり言って乗り気はしない。
だが、いつも控え目なの願いを叶えてやりたいとも思う。
「私、まだ一度も見たことなくって。
きらびやかなパレードとか、可愛いぬいぐるみとか・・・」
ダメ、ですか?と、潤んだ上目遣いで懇願されれば、誰でも行くに決まっている。
「いいですよ、分かりました。
ただし、条件があります」
嘆息交じりに私は提案した。
「じょ、条件?」
「きっと人が多いはずです。
絶対に私からはぐれないように、手を繋いでおくこと、いいですね?」
なぁんだ、それだけ?と言わんばかりの安堵の表情をし、
「はい!」
とびきりの笑顔で返事をした。
サーカス当日。
屋敷を訪れたは、普段よりもおめかしして可愛らしい。
私は挨拶もそこそこにすかさずキスをした。
一斉捜査の後のサーカスだ、我が社は対象にはなっていなかったから、変装などはしなくても良いだろう。
むしろ、変装などすれば、に不審に思われてしまう。それだけは避けたい。
私は普段通りのスーツで出た。
サーカスは思ったよりもきらびやかだった。
が楽しむには充分過ぎるほど。
「うわぁ、ステキ!!
あっ、ニャンペローナ!」
はしゃいだがキャンディーバー欲しさに手を伸ばした途端。
繋いでいた手が一瞬だけ離れた。
その一瞬がくせものだった。
離れた手と手はどんどん遠ざかる。
「っ!!」
これではいけないと焦り、を追いかける。
は人波にさらわれているようだ。距離が縮まらない。
「どけっ!!」
私は、街中であるにも関わらず険しい表情で人山をかきわけた。
私の腕の力の強さに人々は押し退けられ、私はようやくに辿り着くことが出来た。
「・・・」
ほっとした私は、押し退けられた人々の痛い視線も気にせず、を腕の中に抱いた。
のぬくもりがちゃんとここにある。
「ダメじゃないですか、。
約束が違いますよ?」
だが、口調は厳しくない。
我ながらなんて飴のように甘いのだろうと、可笑しくなる。
「ご、ごめんなさいっ、だって、キャンディーバー欲しくて、
でも、手が、、手が、離れ、ちゃって・・・・・」
それでも、は密かに泣いているようだった。
「・・・・・
そう泣かずとも・・・・」
嘆息しつつ、優しく頬の涙を拭い、そして、くちづけた。
「ほら、サーカスが始まってしまいますよ?
参りましょう」
手を繋ぎなおし、促した。
「で、でも・・・」
約束を破ったからか、泣いているからか、躊躇している。
「ほら、今日しか無いのですから。見ておきましょう?」
の手の甲にキスをひとつおとし、空いた手でぎゅっとを抱き、落ち着かせると、
「・・、はいっ」
ようやく笑顔になった。
つられて私も、思わず笑顔をこぼした。
☆☆☆
ちゃんにだけは甘〜い黒白さん♪
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