優しすぎる狼2
『余ったからどうぞ』作戦から一夜明け。
一日中、ヴォルグさんを想いながら過ごす私に、学校の友人たちは、
「にやにやしてキモチワルイ」
と、失礼なことを言い放った。
なんとでも言うがいいさ。
一歩前進したんだから。多分。
帰宅して、ベランダからお隣りを覗く。
(覗くと言っても、明かりが点いてるかどうか気になってちょっと見ただけだから!
お家に居るかな?どうかな?って思っただけだから!!)
残念なことに、ヴォルグさんのお家の窓からは、
明かりは漏れていなかった。
まだ、帰って来てないのかな・・・
そんなことを思いながら、ぽんやりと過ごしていると・・・
ピンポ〜〜ン☆
インターフォンが鳴る。
!!!
も、もしかしてヴォルグさん?!!
いやいやでもまさか。
そんな都合の良いことが。
絶対違うって、宅配便かなにかだって!
や、でも、もしかしたら、ヴォルグさんかも・・・
そんな、淡い期待を持ちながら、
私は玄関に掛けてある鏡で髪を整え、
急いで扉を開けた。
そこには、期待通り、うぅん、期待以上の、
ヴォルグさんが笑顔で立っていた。
「コンバンハ、。
昨日はどうもアリガトウ。
とても美味しかったですヨ。」
そう言って、綺麗に洗ってあるタッパーを返してくれた。
じゃ、と言って、引き返そうとするヴォルグさんをどうにか繋ぎとめておきたくて、
「あのっ、ヴォルグさん!
今、お時間ありますか?!」
必死に声を上げた。
「?
はい、ありますけど?」
「よ、良かったら、家に上がっていきませんか?
おしゃべりしませんか?」
思い切って言ってみた!
でも・・・
「いや・・・それハ・・・
は女の子。
男のボクが上がっちゃいけナイ。」
ちょっと困ったように笑って、ヴォルグさんはそう答えた。
・・・真面目だなあ。
そんなところも素敵です。
「あの・・じゃあ、近所に行きつけのカフェがあるんです。
そこで、お茶でもどうですか?」
苦し紛れの代替案に、ヴォルグさんは、
それならいいですヨ、と、笑顔で返してくれた。
ということで、今、ヴォルグさんとふたりでカフェに来ています!
いつものカフェなのに、
ヴォルグさんと一緒に居るだけで、違った雰囲気になる。
とゆーか、これはもうデートと呼んでいいんじゃないかな?!!
私は一気に舞い上がった。
カプチーノを飲みながら、ヴォルグさんを見つめる。
あぁ、やっぱりカッコイイなあ。
でも、カッコイイだけじゃない。
さっきみたいに、女性の部屋へは簡単に入らない誠実さもあるし、
こうやって私に付き合ってカフェに来てくれる優しさもある。
「が誘ってくれて嬉しいです。」
唐突に、ヴォルグさんがそう切り出した。
え?!
私の方が何倍も嬉しいんですけど!!?
「ボク、日本に来てからズット一人。
友達が欲しかっタ。
、初めての友達。
おしゃべり出来て嬉しイ。」
そう言うと、ヴォルグさんはにっこりと笑った。
精悍な顔つきだけど、笑うと少年みたいに幼くなる。
睫毛も羨ましいくらい長いし、ほんと綺麗な顔だ。
そんなヴォルグさんの笑顔を、
ポーッと、真っ赤な顔して見つめてしまった。
それから、1時間位、色んなことをおしゃべりした。
旧ソ連出身で、プロボクサーとして来日したこと。
母子家庭で、病気のお母様を助けるためにボクサーになることを決意したこと。
(だから、タオルに『音羽ボクシングジム』って書いてあったんだ。)
私より1つ年上だということ。
優しそうな笑顔の裏に、切なさがいっぱいつまってるんだなあ・・・
今度、試合があると聞いて、
「絶対応援に行きます!」
と約束した。
ヴォルグさんも嬉しかったみたいで、
チケットを用意してくれると言ってくれた。
「そろそろ帰りましょうカ。
もう遅いデス。」
ヴォルグさんがそう言って、席を立つ。
あぁ、もっといっぱいおしゃべりしたいのに!
仕方無く席を立つと、
「もっと話したかったですネ。
またおしゃべりしてくれますカ?」
と、ヴォルグさんが困ったような笑顔で訊いてきた。
もう、願っても無いッ!
「もちろんです!」
私達は、笑顔でおやすみなさい、と、別れた。
翌日の夜。
調子付いた私は、またしても『余ったからどうぞ』作戦を決行した。
ヴォルグさん家のインターフォンを鳴らす。
「はい。」
中からヴォルグさんの声がする。
緊張しながら待ってると、玄関が開き、ヴォルグさんが出てきた。
「あ、あの、ヴォルグさん、これ、また作りすぎたので・・・」
と、タッパーを渡すと、笑顔で受け取ってくれた。
「ワァ、ありがトウ!」
そんなヴォルグさんの後ろ・・・
部屋の中は、真っ暗だ。
不思議に思った私は、
「・・・ヴォルグさん、お部屋の電気、点いてないですけど・・・?」
暗いのが好きなのかな??
ヴォルグさんは少し寂しそうに笑い、
「ボクの村には電気が無かったかラ・・・
電気を点ける習慣が無いんデス」
そう、答えが返ってきた。
あぁ、そんなに寂しそうに笑わないで下さい・・・
なんだか、聞いちゃいけなかったみたいで、
少し後悔した。
数日後。
またしても私は、ヴォルグさん家のインターフォンを鳴らした。
今日は、『余ったからどうぞ』作戦じゃない。
「はい?」
出てきたヴォルグさんの後ろの部屋は、やっぱり真っ暗なまま。
「ヴォルグさん、これ、プレゼントです!」
勢いよく、紙袋を手渡した。
「プ、プレゼント??」
ヴォルグさんは不思議そうに中を開けた。
「こ、これハ・・・」
中には、たくさんのアロマキャンドルと、受け皿、ライターのセット。
「電気を点けない習慣、って聞いたから。
キャンドルなら、いいかな、と思って。
アロマ付きだから、好き嫌いがあるかもしれないですけど、
色々入れてるので、試してみて下さい。」
私は出来るだけ笑顔でそう伝えた。
「・・・
アリガトウ。
早速、今から試しますネ。」
ヴォルグさんも、笑顔で返してくれた。
そう!
その笑顔が見たいんです。
ヴォルグさんが笑顔になれば、私もすごくしあわせなんです。
どうすれば、もっと、ヴォルグさんの笑顔が見られますか・・・?
☆☆☆
ちょっぴり進展。
ヴォルグさん相手はどうしても切なくなりますなあきゅんきゅん!
↓宜しければ感想などどうぞ♪
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