白い部屋で


俺が怪我を負ってから、6年・・・
当初は、友達がたくさん見舞いに来てくれたものだが、
今では殆ど来なくなっていた・・・

を除いては。


は、俺と京介の幼馴染みにあたる。
俺よりはひとつ年下で、京介とも仲が良い。
家も近所だから、よく昔は一緒に遊んだものだ。
そう、俺が怪我を負った日も、一緒だった。

だからなのか、殆ど毎日、病室に来る。
宿題を見てくれ、だの、
クッキーを焼いたから食べてみてくれ、だの。
他愛もない話ばかり。
だが、それも悪くない。
そう、思ってた。
・・・でも・・・


「優くん!あのね、ここがちょっと分からないの。」

今日もまた、は病室に来る。
数学を教えて欲しい、と言って。

「・・・なあ、
 どうして毎日来るんだ?
 宿題なら、学校の友達に聞いた方が早いだろうし、
 よく分かるんじゃないのか?」

俺は少し不機嫌に、そう言い放つ。

「あ・・ご、ごめん・・・
 迷惑だった・・・かな・・・」

「・・・迷惑、ってわけじゃないけど・・・」

正直、分からない。
なぜ、毎日、俺のところに来るのか・・・

もしかして・・・

「なあ、
 もしかして、・・・責任、感じてるのか?」

「・・・責任?」

「俺が怪我した時、も傍に居たろ?
 あの時、、私がどうにか出来ていれば、って、けっこう自分を責めてたよな。
 それで・・・、それで、毎日、俺のところに・・・?」

の顔が、強張った。
ああ、そうか。やっぱり。

「もし、そうなら、もう来ないでくれ。
 責任を感じる必要なんて、無いんだから・・・」

俺は吐き捨てるようにそう言うと、
とは反対の、窓の外に顔を向けた。

早く、出て行ってくれ。
もう、俺なんかに関わらないで欲しい。
自由に、自分の人生を選んで欲しい。


「な、んで・・・」

布団から出していた俺の左手に、の右手が重なる。
の震える声と、その手の熱さに、
俺は戸惑い、の方へ振り向いた。

目が合う。
その目は、潤んでいた。
握られた手に、力が入る。

「なんで、そんなこと言うの、優くん?
 そりゃあ、ちょっとは責任、感じてるけど、
 でも、それは毎日優くんに会いに来る理由じゃないよ?
 私が、ここに来る理由は・・・、
 ・・・気づいてくれてると、思ってたんだけどな・・・」

そう言うと、ふ、と哀しそうに笑って、は俯き、立ち上がった。

「あの・・・迷惑なら、・・・もう、来ないよ。
 でも、・・・一言だけ・・・」

瞳をゆっくり上げ、俺と目を合わせる。

「私、・・・私、優くんが好き。
 ずっと、前から、好き。
 今でも、・・・優くんが好き。
 ・・だから、・・・・」

最後の方は、泣きそうになって、声が出ないでいた。
俺はと言うと、驚きで、声が出せないでいた。
胸が、締め付けられるようだ。
こんな苦しさ、他に知らない。

ああ、俺は・・・

声をつまらせたの手を、今度は俺が握り、
そして、ぐい!と、自分の方へと引っ張った。

「わっ?!」

驚いたは、体ごと俺へのしかかる。
近づく、顔と顔。
すぐそこに、涙の溜まった瞳、そして、真っ赤な頬。
俺はゆっくり距離を縮めると、の唇に自分の唇をそっと重ねた。

「っ!」

が、りんごのように顔を赤く染める。

「悪かった。
 俺も、が好きだ。」

「?!
 え、だって、優くん・・・?!」

「・・・自分の好きな子がさ、
 不自由な俺に毎日仕方なく付き合ってるのかと思ったら、自分が嫌になって。
 それで、あんなことを・・・
 ごめんな。」

「・・・優くん・・・」

そして、俺たちは、また、唇を重ねた。

これで、気兼ねなく、君を招くことが出来る。
狭い、白い、病室の中へ。


☆☆☆

きっと、優一兄さんは、自分に負い目を感じてると思う。
そのわだかまりが無くなればいいな、と思って。

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