月と星と 1
明治2年5月11日ーー・・・
「退くな!!退く者あれば、斬る!!!」
箱館の戦場(いくさば)に、土方歳三の怒号が響く。
「新選組副長、土方歳三、参る!!!」
あぶみを蹴り、愛刀 兼定を抜刀した歳三は、馬を走らせ、敵軍に突っ込んで行く。
と、その時。
一筋の銃弾が歳三を貫いた。
「!!!」
腹部に衝撃が走り、馬からぐらりと落ちる歳三。
青空が目の前に広がる。
ーー・・これで、仕舞いか・・・
ゆっくりと瞼を閉じ、覚悟はしたものの・・・
ーー・・今暫く、闘いたかった・・・
近藤さん、総司、・・俺は・・・・
歳三が地に叩きつけられる、その瞬間。
ブワッと空気の渦が歳三を包み込むと、
馬を残し、一人、消え去ってしまった・・・・
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平成22年。
OLのは、一人暮らしのアパートにて、風呂上りのひと時、
のんびり読書をしながら楽しんでいた。
読んでいる本は『土方歳三の日記』。
本棚には、『戦国武将』『新選組』など、歴史の本が並ぶ。
その中でも一番多いのは、新選組鬼の副長、土方歳三関連の本だった。
「はぁ〜〜、土方さんの日記が残ってたら、それこそ大発見だよね〜ステキ。」
ベッドに横になり、ウットリと妄想を膨らましていたその時。
急に室内の空気が変わった。
キィィィイン・・・と、耳鳴りがし、ベッドの傍に空気が渦を巻く。
ゴゴゴゴと音を立てながら、まるで小さな台風がそこに出現したかのようだった。
「な・・なに、コレッ?!!」
頭痛と吐き気を伴う耳鳴りに、両手で頭を抱え、耐える。
やがて空気が落ち着くと、台風の中心に、一人、男性の姿を見出した。
それは、軍服に抜刀した日本刀を持った軍人のようだった。
軍服と言っても、大戦中の陸・海軍などのそれではなく、どこか、もっと古い・・・
江戸末期頃の、洋軍服のようであった。
そして、男性の顔を凝らして見ると・・・
その見覚えのある面持ちに、はハッとなった。
その顔の主の名前を、口の中で小さく呟く。
「・・・ひ、土方・・さん・・・・?!」
ーー・・コレ、どう見ても土方さんよね・・・?
は、ずり落ちる眼鏡を指で押し上げながら、
不意に現れたその男性を見つめた。
歳三は、撃たれたはずの腹部に手をやり、
傷が無いことを確かめると、ホッと安堵の色を見せた。
「俺は・・・生きてる・・・・」
信じられない、という表情で辺りを見回し、の目とぶつかる。
の目からは、涙が溢れていた。
「・・・なんだ・・・泣いてんのか・・・・?」
の方へにじり寄ると、そっと頬に伝う涙を一筋ぬぐう。
少し驚いているに対し、ふっと微笑みを残すと、
歳三は力尽き、魂が抜けたかのように崩れ落ちた。
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