すれ違い、勘違い 1





「副長」
「あぁ、山崎くんか、入ってくれ」
天気の良い昼下がり、屯所の副長室を、監察方の山崎が訪ねた。
「・・・お呼びでしょうか」
山崎が障子を開けると、・・そこには、土方と向かい合って、一人の女が座っていた。
恐縮しているようだが、山崎を見て、小さく息を飲んだ。
対して、山崎も思わず声を上げそうになった。が、平静を装う。
「用とは他でもねェ、今日からコイツを女中として雇うことにした。屯所の中を一通りと、仕事について案内して貰いてェんだ」
「御意」
山崎は軽く頭を下げ、目を伏せた。
女は山崎の後に付いて部屋を出る。
「あのっ、・・私、と申します。山崎さん、と、仰るのですね・・・」
「あぁ」
「私、すぐそこの団子屋で働いていたのですけれど、土方さんが、こちらで働かないか、と・・・」
山崎の後ろから、華やかなの声が追いかけてくる。
山崎は少しムッとした。
(・・・副長の、・・・か。結局、そういう事、なんだろ。オレがどんなに想ったって・・・)
実際、山崎はごくたまに、の働く団子屋で休むことがあった。
の働きぶり、器量の良さに感心し、いつしか淡い恋心を抱くようになっていた。
だが、新選組の監察方という立場上、表立ったことは出来ない。
まさに、忍ぶ恋だった。
一方、は・・・
(あの人、だ・・・新選組の人だったんだわ・・・山崎、さん・・・・)
山崎の名を心の中で何度もかみしめながら、山崎の広い背中をみつめた。
もまた、ごくたまに来る寡黙な侍に心を奪われていたのだ。
たまにしか見ない為、何処の誰とも分からず、また、ただ黙って団子を食する姿に声を掛ける勇気は無かった。
声を掛けず、そっとしておいた方が、その侍の為になる。そう思っていたのだ。
その男が、今、目の前に居る。
の心は、感動で甘く震えていた。
屯所の中を案内され、また、仕事内容を詳しく教えられ、は、この人の為に頑張ろう、精一杯やって、喜んで貰おう。そう、心に誓った。
その心意気が伝わったのか・・・・
「・・・、・・・」
「っ!ハイ!」
名前を呼ばれ、心臓が跳ねる。
「あまり力むな。肩に力が入り過ぎると、かえって良くない」
「ハイ!」
自分を気遣って貰った、その気持ちがとても嬉しくて、はにっこりと笑った。
その笑顔を見て、山崎は一瞬ドキリ、と、目を見張ったが、すぐ、自然と笑顔になった。




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